俗にいう白河の関越えを果たし、108年間開かれなかった扉をこじ開け、東北勢として初の甲子園優勝を果たしたのだ。同チームは今年も複数の本格派ピッチャーを要し、慶応高校に惜しくも敗れながら2年連続の決勝へ進出している。
そんな仙台育英を率いるのは須江航監督、40歳。新進気鋭の活躍で高校野球界に新風を巻き起こしている方だ。野球に詳しくなくても「青春って密なので」という言葉を聞けばピンとくる方もいるだろう。
そんな須江監督の講演会が今週末郡山で行われたので拝聴してきた。テーマは「失敗から学ぶ~人生は敗者復活戦~」である。
まず私の感じた第一印象は、「教員っぽくないな」である。話を聞いていて実業家です、と紹介されたほうがピンとくるのだ(普段は情報化の教諭をされている)。
80分に及ぶ講演会は流れるような聞き心地の良さがあり、合間には自虐的なユーモアで会場がどっかんどっかん笑いに包まれた。(謙虚ではあったが終始笑顔が絶えず、自信に満ちているように映った)。
そしてなにより理論は細部にまで組み込まれていて、技術的なことはもちろん、心構えについても舌を巻くほどち密であった。講演中も何冊かビジネス書等を引用されていて、熱心に勉強されていることがうかがえた。
そんな講演会で最も印象に残った話は、生徒とのコミュニケーションの取り方である。
人に対して伝わる言葉は1つしかない。
それは「相手が聞きたいこと」である。
つまり話し手は内容に興味を持たせるか、聞き手に対して「この人の話は聞こう」と思ってもらえないと何を言っても伝わらないのだ。これはビジネス、一般論としてはもちろん、とりわけ様々な生徒がいる教員をやるうえで重要な考え方だ。頭が痛くなるような言葉だが、本当にその通りだと思う。
考えてみればこの言葉自体は初めて聞くものではない。でも偉業を成し遂げた須江監督の口から出てくると説得力がある。まさしく、私が興味を持って聞いていたから印象に残ったのだろう。
最近思うのだが、侍ジャパンの栗山監督にしても、サムライブルーの森保監督にしても一昔前の怒りを前面に出すような闘将像からずいぶんかけ離れている。スマホやAIの台頭であらゆる世代が瞬時に世界の一流や情報に触れられる時代になった。丁寧な説明や論理性が欠けた議論には現代の賢い若者は見向きもしてくれないというのは、これも須江監督の言葉である。